Vol.9 カルボナーラとたかはしたまご
【夢が1つ叶った日】
取材から1年3ヶ月が経った2017年8月。その時は突然に。高橋さんから1本の電話があり、たかはしたまごの皆さんがご来店される日が決まりました。
遂に高橋さんがカーサベッラに来る!
表現しようのない高揚感で胸が高まりました。
その日は問答無用で貸切にしました。
「いつか高橋さんに僕の作るカルボナーラを食べてもらいたい」・・・その想いがこんなに早く実現するとは思いませんでした。
高橋さんは鶏舎のスタッフの皆さん全員を引き連れて御来店くださいました。鶏舎は365日休みなく稼働しています。私どものレストランに来てくださるために、留守番のパートの方をご手配し、様々な状況をご調整して来てくださりました。
おまかせのフルコース。
カーサベッラはあくまでもレストラン。カルボナーラが美味しいのは当たり前。カルボナーラだけが美味しくてもダメで、その前後のお料理はもちろん、〆のデザートまで気を抜くことはできません。そして何より最初の印象が大切です。
いよいよ御一行がご到着。2台の大きな車でご来店されました。運転される方はノンアルコールなので、塩分量の調整が必要です。
失敗から生まれた「たかはしたまごのスクランブルエッグのサマートリュフ添え」を含む前菜3皿をお出しして、遂にカルボナーラ。
急に緊張して手が震えました。これまでの高橋さんとのやり取り、ここに辿り着くまでの艱難辛苦が走馬灯のように頭を駆け巡りました。
そして遂に高橋さんがカルボナーラを食べた。
頷くことも、何か言葉を発することもありませんでした。しかし、私は不思議と少しも動揺することはありませんでした。
高橋さんが食べるその姿を見ることができ、私はただただひたすら感激していました。
フルコースすべてのお料理を出し終え、高橋さんと話をしました。
「カルボナーラというパスタにうちの卵をこのような形で使ってお客様に出しているなんて、こうして食べてみるまで想像もつかなかったし分からなかったけれど、本当に優しくて食べ飽きない素晴らしい料理だ。卵の風味もしっかり残っていて、とても面白いね。感激したよ」
と目に涙を浮かべながら言葉をかけてくださいました。
その言葉に、私も涙が出そうになりました。
卵に人生を捧げた高橋さん。
その本当の意味で食育を体現した高橋さんの生き様に感銘を受け、共鳴し、この高価な卵がどんなに経営を圧迫しようとも踏ん張り続けて今日まで何とかやってきたこと。無駄ではなかったと思いました。夢が1つ叶ったこの日。少しだけ今日までの苦労が報われた想いでした。

